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「生々しい芝居を撮りたい」 月川翔監督が語る『劇場版 そして、生きる』(ぴあ)

(公開: 2019年09月28日)

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出典元: 月川翔監督

有村架純、坂口健太郎を主演に全6話でWOWOWにて放送された『連続ドラマW そして、生きる』が135分の劇場版となって公開される。NHK連続テレビ小説『ひよっこ』などの脚本家・岡田惠和によるオリジナル脚本を映像化したのは映画『君の膵臓をたべたい』を大ヒットに導いた月川翔監督。劇場版公開を前に、ドラマ放送時から絶賛を集めた有村、坂口ら俳優陣の生々しい演技や震災や被災地への向き合い方について話を聞いた。

作品場面写真

東日本大震災の復興ボランティアを通じて知り合った瞳子(有村)と清隆(坂口)を中心に、約8年におよぶ彼らの人生の選択を描いていく本作。ドラマ放送時から、月川監督のもとには特に有村、坂口をはじめ、俳優陣の芝居に対する称賛の声が多く寄せられたという。

「特にお芝居のトーンについて、もちろん、勝手にこちらが俳優さんのベストを決めつけちゃいけないんですが(笑)、『それぞれの俳優が一番よく見える作品なんじゃないか』という声を多くいただきました」と明かす。

完成した脚本が届く前の段階で作品の舞台となる気仙沼市(宮城県)や盛岡市(岩手県)に足を運び「アポなしで土地の人々に話を聞いた」という。被災者の言葉に耳を傾ける中で「作り物っぽくない、“生っぽい”作品にしよう」と決めた。

俳優陣に話したのは「作りこみ過ぎず、生々しい芝居を撮りたい」ということと「言い淀んでもいいから、勝手に芝居を止めないでほしい」ということ。こうしたディレクションが顕著に表れているのが、瞳子と清隆がつき合うことになる告白シーン。ごく普通の恋愛映画であれば“華”というべき告白シーンだが、本作ではキラキラした雰囲気などほとんど感じさせない。

「岡田さんの脚本を読んで、ここでキラキラ感を求められているわけではないだろうと。日常で実際に起こることってそんなに劇的じゃないですから。普段なら坂口くんのキラキラした寄りを撮って、それにときめく有村さんの表情を映して……という流れですが、そうじゃなく、会話の中で『つい告白しちゃった』という感じにしたかったんです」

同世代の女優の中でも群を抜いた演技力を持つと評される有村だが、月川は「本人は心外かもしれないけど、決して器用なタイプではない。だから技術でこなすんじゃなく実際にその場でその人物を生きないと出てこない。それが観る者を感動させるんだと思う」と語る。

一方の坂口の魅力は“自然体”。映画『君と100回目の恋』に続いての仕事となったが「前の現場では、泣きの芝居で何とか感情を出そうとしていたけど、今回は、自然と滲み出てくるものを待っている感じがありました。受けるお芝居が多かった中で、清隆は甘ったれのボンボンにも見えるし、しっかり者にも見える。劇場版は瞳子を中心に物語を紡がれるけど、坂口くんが清隆として自然体でそこにいて、周りのお芝居を受け止めて補ってくれているからこそ、この映画が成立しているんだなと思います」とその成長ぶりを称える。

もうひとつ、月川が「一番悩んだし、難しかった」と語るのが、瞳子らボランティアの学生たちが焚火を囲んで、なぜここに来たかを語るシーン。まるでドキュメンタリーのような雰囲気でひとりひとりがじっくりと語る姿が映し出される。

「決してドキュメンタリー風に撮ってやろうと思ったわけじゃないんですが、明かりは焚火と周りの建物の灯だけ。その場にあるものだけで、作為的に何かを足すんじゃなく、そこで人物たちが生きているのをたまたまその場に居合わせて撮ったという感じにしたかったんです」。

本作は決して、震災そのものがテーマではないし、瞳子も清隆も被災者ではない。この焚火シーンが月川にとって、重要な存在となったのは「このシーンこそが作品のスタンスそのもの」を表しているから。焚火を囲みつつ瞳子らは仲間たちに、被災地にやって来たのは、決して被災者のためではなく、自分自身のためであると告白する。

「そもそもこのシーンは、劇場版ではバッサリ切ろうかと悩んだんです。物語の流れの中で、これだけの長いシーンが前半にあるって、どう見てもいびつですから。それでも入れたのは、『ボランティアたちは良いことをしに来た』という見せ方をしたくなかったから。実際に現地の人にボランティアの存在についてもいろんな話を聞いて、これがこの作品のスタンスなんだと思いました」。

『キミスイ』を含め、世間は月川に対し、“中高生を対象にしたキラキラした恋愛映画の旗手“というイメージを強く抱いていることだろう。そんな月川にとって、本作はひとつのターニングポイントともいうべき作品になると感じているという。

「変な言い方ですが、この作品ができて『自分にもこんな作品が作れるんだ?』と思ったんですね。撮ったのはまぎれもなく自分なのに、シーンを見ると『え? どうやってこんな風に撮ったんだっけ?』と自分でびっくりもしています(笑)。今後、もう少し大人向けの作品や実話ベースの話を作ってみたいなとも思うようになりました」。

繊細な芝居によって紡がれていく登場人物たちの人生の選択。震災ドラマでも恋愛映画でもなく、観る者の想像力に委ねられる大人のドラマとして楽しんでほしい。

『劇場版 そして、生きる』
9月27日(金)イオンシネマ板橋、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

取材・文・写真:黒豆直樹