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おとな向け映画ガイド オススメはこの4作品。(ぴあ)

(公開: 2019年10月02日)

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出典元: イラストレーション:高松啓二

今週末に公開の作品は23本。1日3本観ても1週間では観きれないとんでもない数です。全国100スクリーン以上で拡大上映されるのは『蜜蜂と遠雷』『ジョーカー』『HiGH&LOW THE WORST』『ジョン・ウィック:パラベラム』の4本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が19本です。この中から厳選して、おとなの映画ファンにオススメしたい4作をご紹介します。

■『ジョーカー』
体調と精神状態が万全なときにご覧下さい。結構ヘビーです。が、この秋のベストといっていい映画だと思います。DCコミックス、『バットマン』シリーズのあの悪役がいかにして生まれたか、と軽く考えていたのですが、いやあ凄い!

映画の舞台は1981年の「ゴッサム・シティ」、つまりニューヨークです。荒廃しきった大都会の片隅、ピエロのメイクで街頭宣伝の仕事をしながらコメディアンをめざすアーサー。少し情緒不安定で、医療補助を受けています。アパートには病弱な母が同居している、そんなつましい暮らしです。そこにある事件がおき……。ここからの展開は圧倒的な迫力。

ホアキン・フェニックスが、孤独で、ときおり狂気をはらんだアーサー役。これが鬼気迫る演技です。アーサーが憧れるテレビの人気者にロバート・デ・ニーロ。彼の存在がこの映画を第一級のグレードに押しあげています。デ・ニーロの『キング・オブ・コメディ』、そしてあの『タクシードライバー』を連想させるシーンやイメージにも魅了されました。

こうなると『バットマン』シリーズはこの映画の後日談にすぎない感じです。

■『毒戦 BELIEVER』
これまた、ハードな犯罪サスペンスです。香港ノワールの巨匠、ジョニー・トーの『ドラッグ・ウォー 毒戦』を韓国でリメイクしています。国際的な麻薬取引に絡む、麻薬取締局によるおとり捜査、という設定やストーリー展開は受け継いでいますが、人間関係などは韓国映画らしく濃密なドラマとなっていて、香港-中国大陸という犯罪の舞台も、韓国-中国大陸になるといろいろ状況も変化します。なかなか面白い翻案と思いました。

イ先生というニックネームの麻薬王が率いる麻薬密売組織を追っている麻薬取締官チーム。イ先生の存在は謎で、組織内でも実際に会った人間はいない。その秘密工場が何者かに爆破される事件があり、チームはこれを突破口に、潜入捜査を開始します……。

麻薬取締官チームのリーダー、ウォノに扮しているのはチョ・ジヌン。夏に公開され評判をよんだ『工作 黒金星と呼ばれた男』では韓国スパイチームのボスを演じていました。闇マーケットの支配者役のキム・ジュヒョクは2017年に交通事故で亡くなり、この映画が遺作です。

「捜査対象:全員狂人」とチラシに書いてありますが、追う方も追われる方も狂気が漂っています。さらに、これまでの韓国の暗黒映画と比べても、でてくる風景の荒涼感が半端ない感じです。韓国ノワール、さすがです。

■『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』
日本ではあまりテーマになったことのない「妊活」の映画です。50歳近い夫と一回り以上年下の妻。こどもは作らないはずだったのですが、突然妻が、友達の影響で「私、ヒキタさんのこどもに会いたい」と言い出すのです。愛する妻の願い。まずは基礎体温を計り、この日ならと子作りに励むのですが、その徴候すらありません。クリニックの検診では、どうやら原因はヒキタさんにあるようで……。

原作はヒキタクニオさんの自伝的エッセイ。物書きのヒキタさんを演じる松重豊さんが、髪の毛をごま塩にし、ふだん着の、気楽な雰囲気で演じています。サウナとビールが好き。何冊かの著書もあり、ま、のんきな暮らし。それが妊活に励むことになり、えっなに? 「精子運動率が低い」って、どういうこと!?  松重さんは映画初主演。妻役は北川景子さんです。タイトルからしてハッピーエンドを宣言している、ハッピーな映画です。

■『“樹木希林”を生きる』
観始めは「面白い人だな」、だったのが、「すごい人」に変わり、最後は「とんでもなくすごい人」になりました。樹木希林恐るべし。昨年他界した希林さんの最後に長期密着取材したドキュメンタリー。NHKで放送されたものを元に、未公開映像を加え再編集された映画です。

資料に「ディレクターを家まで自家用車で迎えに行き、撮影現場までの間、自ら運転し語り続ける」とあり、えーまさか、と思いましたが、驚きました。希林さんが本当に、自分の車で木寺一孝監督を迎えに行って、運転しながら語るのです。監督はそれを助手席から撮影し続けます。

2017年、希林さんに密着したいというオファーに、『モリのいる場所』『万引き家族』『日日是好日』『命みじかし、恋せよ乙女』の4本の撮影現場に同行すれば何とかなるでしょうとOKがでます。希林さんのつけた条件は、監督が一人でカメラを回し、わたしと向き合うこと、でした。ライトだの、助手だの大げさなのはいや、というわけです。それがとんでもない撮影、映像になりました。

このところ、残された言葉をもとにした著書は何冊も出版され、なかには100万部を越えたものもあるといいます。わかるような気がします。大変魅力的な女優さん、とほうもない人物です。

文=坂口英明(ぴあ編集部)